ゾンビと健康

マルドロー。
『黙示録』から、14日。
すでにのどかな田舎町の風景はどこにもなく、外には大量のゾンビがいる。
スーパーマーケットに出かければ、もれなくゾンビたちと出くわすこと請け合いだ。

そんな死と隣り合わせの世界で、なんだかんだ言ってもう2週間もの時間が過ぎた。
どれもこれも、サンドボックスの設定でゾンビの脳みそを全力で馬鹿にしたおかげである。
ゾンビは豆腐のように脆く、武器や食べ物は探せばそれこそいくらでもある。
こうなってくると、装備品さえ整えればゾンビはそんなに怖いものではないのだ。

料理という行為だけが、かつて私が調理師であったことを思い起こさせる。私は料理人の命である包丁を振り回し、私の命と引き換えてきた。相手が食材ばかりだったころはまるで遠い昔のことのようだが、ほんの二週間前にすぎない。

水道と電気が止まる(らしい。真面目にプレイするとすぐ死ぬので、実際に見たことはない)来たるべき時に備えて、他人の家を漁り、水を汲み、TVディナーを調理し、パンをこね、缶詰を開け、拠点とした2階建ての他人の家でローストビーフサンドイッチをつまむ日々。
いつか食べられなくなるであろう冷凍庫のアイスクリームのことを除けば、正直言って……この生活は悪くはなかった。
最悪というほどではない。

15日目の朝。
バリケードで囲まれた家で起床した私は、ステータス画面に違和感を覚えた。
体が重い。
どうして、と思った。心のどこかで、自分だけは大丈夫だと思っていた。サンドボックスの設定でゾンビからの感染はしないはずだ。なお、前のキャラクターは潤沢な物資に囲まれてゾンビをいたぶっていたら、ほんの軽いけがが引き起こした感染症で死んだ。
恐る恐るステータス画面を確認する。

ステータス画面に表示されたのは、『太りすぎ』の文字。
まさかの太りすぎである。
CPにして、マイナス6もの悪ステータス。およそ「臆病」と「近眼」と「難聴」をセットにしてやっと天秤が釣り合う特徴である。
調子に乗って、たくさんものを作り、ものを食べていたのがいけなかった。思わずリュックの中からマヨネーズを取り落とした。塩、コショウ。マーマレード、酢も取り落とした。

荒廃した世界の中で、痩せる手段はそう多くはなかった。
というか全くわからない。
単調な生活の中で、中性脂肪が牙をむく。
食事をとらないでみた。死にかけるだけである。思い切り走ってみた。ただ疲れ果てるだけだった。水を飲む。喉は乾く。腹は減る。食べ物を摂取する。痩せる気配はない。
ほんとうにどうしたらいいんだこれ。どうしたんだ。

ゾンビまみれのこの世界で、一体だれが私の健康をおもんばかってくれるというのか。

2017.12.25