ジルとダイナとパーカー

店の外で銃撃戦が起こる。
VA-11 Hall-Aの舞台、グリッジシティの世情は非常に不安定だ。

危ないので、その日は店に泊まる。
騒ぎがいくらかマシになった次の日は日曜日だった。
バーの営業はやめにして、デイナはジルをアパートまで送る。

VA-11 Hall-Aのボス、デイナはとても腕の立つ女性で、バーテンダーのジルはデイナが大好きだ。

なんてったってジルの自宅の壁には、デイナのポスターが貼ってある。
スマートフォンの待ち受け画面は「ボスと私」のツーショット。
それも、その写真は明らかにジルが左手にスマートフォンを構え、二人を自撮りする形でシャッターを切っている構図ときたもんだから……。
いや、仲のいい女友達ならこれくらいの写真は撮るかもしれない。
うーん。果たしてそうだろうか……。

「ボス、あがっていきません?」

ジルはデイナを部屋に誘う。

デイナとジルの距離は、デイナと同僚のギリアンの距離よりも物理的に近いように思える。それはギリアンが放っておいても大丈夫そうな人間だからというのに加えて、やっぱり同性だからだろう。

「寒くなったな」
「セーターかなにか着ます?」
「いや。気にするな」
「いえ。着てください。このパーカーなんてどうです? よかったら差し上げますよ。どうせ1回も着ていないし」
「うむ…考えておこう」

冗談であげた自分のポスターを部屋に貼っている事にデイナが突っ込むと、ジルは「殺風景だったからです。ほかの理由は良く分からない。貼ったら楽しいかと思って」と答える。
恋愛的な好きにしろ、ただの憧れにしろ、なんだかジルの距離感は危うい。

「友達と飲むときは同じものを飲む」
「ボス…私を友達と思っていてくれるんですか?」

2人は、ベランダでビールをごくごく飲む。

何の説明もなく「元カノ」というセリフが飛び出し、それで「ああ、女性が恋愛対象なのか」と察せられるような、同性の恋人がいようといまいと特筆されることの少ない世界観ではあるけれど、それでもやはり、ジルとダイナの距離は近い。

デイナは「お前を親友だと思っている」といい、それから「お前のことをもっとよく知りたい」と言う。
後ろのほうのセリフだけ抜き出せば口説き文句だけど、あまり下心がない。
デイナの振る舞いはすごく紳士的だ。
自分に好意を持っている相手に対して、とても慎重だ。
友達である、対等な友であるというポジションを明言しながら、そういった存在がたくさんいて、あなたが特別だとはほのめかさない。

ジルに缶ビールを飲ませながら、会話をなんどか見直していたのだけれど、この一連の会話で、ジルは明らかにプライベートなことを話しすぎているように思う。
ぎょっとするようなことを言う。
デイナはそれを聞く。
決して迷惑そうにはしないし、会話を楽しんでいる様子だし、とても和やかだ。
けれど、デイナは失点しない。
上司というか、大人に徹して、ジルの話を聞いている。

結局、次の日、デイナさんはそのパーカーを持って行かない。

私はこの一連の流れが好きで好きでならない。

2064: Read Only Memoriesをやろうとして、うっかりVA-11 Hall-Aを起動していた。
登場人物のあけすけな話ぶりが苦手ではなかったら、きっと面白いゲームだろう。
ともかくボスは良い。ボスの振る舞いはパーフェクトだ。

ジルがつらいとき、デイナはジルを惜しみなくハグする。
いつでも連絡しろ、と言う。
ジルがつらいとき、デイナはジルをサポートする。
デイナは、ジルの給料をいろんな名目で、少しだけ上乗せする。
けれどデイナは、ジルが精神的につらい時、「そんな状態のおまえを一人にしておけるか!」と言って、部屋にあがりこんだりはしない。
サポートが必要か確認し、信頼し、励まし、ハグをして、あとは本人に任せる。

というわけで、上のシーンが一番大好きなんだけれど、上記の会話はだいぶ省略しているので、詳しくはVA-11 Hall-A本編を参照するように!

Cyberpunk Bartender Actionというタイトルだけれど、別に時間内にカクテルを作らなくては店が爆発するようなことはない。難しい操作は必要ない。

ボスは、ジルからパーカーをもらわない。
なぜだかわからないのだけれど、ボスのそんなところがたまらなく好きだ。

そしてジルは、たまにそのパーカーを着ている。
すてきな片思いだ。