ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット 感想(おすすめレビュー用)
奇行をはたらく名探偵は、良いものだ。
古くからはシャーロック・ホームズなんか、結構突飛なことをやるものだ。
最近遊んだゲームだと『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』が面白かったので探偵・癸生川凌介事件譚シリーズをやっていた。この探偵(癸生川と書いてきぶかわと読む)は奇声を上げながら初対面の人に向かってキリモミ回転したりしていて、大変良い。なお、パラノマサイトのほうの探偵は格好がやや珍妙なくらいで良いヤツである(くじに一喜一憂したりする)。
ところが、奇行をはたらいているからといって名探偵とは限らない。
名探偵でないと名推理はできないが奇行は社会的なあれそれを抜きにしたら、比較的すべての人類に開かれている道である。
さてディスコエリジウムの主人公、……えー、クストー……刑事はほんとうにどうしようもない薬中でアル中である。
クリアした今となっては、ディスコな男に見えなくもないが、はじめのうちは、開始から全裸で、いいところなんて見えてこない、Dキーを押すと右にふらつくこのさえないおっさんが操作キャラだなんてもう勘弁してくれと思った。
過去を掘り起こすほど情けなくて目をそらしたくなることばかりしか出てこない。
このゲームでは、天才性とか人付き合いの悪さとか、そういう欠点が、孤高の天才というよりは欠点が顔についたシミとか10円ハゲみたいに野暮ったく付きまとう。きっとこのゲームでは病室で病に臥せっている人間からするのは腐敗臭、膿のにおい、それから顔に浮いているのは黄疸みたいなもんだろう。髪の毛のキューティクルとか気にしているばあいではない。ゲロにまみれて(実際にゲロを吐くシーンもある……ダイスによるが……)もうどうしようもないくらい情けない。死体に石を投げ続けているガキはたぶん今までやってきたゲームのどのお子様よりも口が悪かった。レイシストが少なくとも「どの?」と聞けるくらいにはいるゲームだ。
開始当初からSAN値(正気度)が21くらいしかなさそうで、頭の中のうるささといえばひっきりなしで、ファシストに目覚めたりする。その辺のベンチに座っている老人にサンドイッチをゆする選択肢が出る。選ばなくてもいいが、選べるんである。
こいつらが狂人のアイデアロールの成功みたいになんかの糸をつかんだ時、「ほんとに?」という気分になる。やけくそになって民家の戸をぶち破ってたら事が進行し、点と点が線につながったときの快感ったらない。ゲロと汚物にまみれているが、しかし隣にはゲロを吐いたときそっとハンカチを差し出してくるキム・キツラギがいるのである。
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振り返ってみるとかなり面白かったけど、2回くらい、本気でリタイアしかけたゲームでもあって(実際、一度はゲームオーバーになったときに、「チュートリアルが足りないな」と思って初めからやり直した)、進まないときは、苦痛じゃないけど、ほんとうに泥の中をはいずるみたいな気分だった。
割と趣味の近い人たちが「面白いよ」と言っているので面白いんだろう、と思って何とか岩にしがみついたら、面白かったのだけれども、面白かった。泳ぎ切った今となっては「あの開かなかった扉の奥には何があったのだろう」「あのとき成功していたらどうなっていたのだろう」と思っていて周回・ないし他人のプレイが見たくなっている。
この怒涛のようにあふれかえる分岐やテキスト量で、このゲームにふさわしい日本語翻訳は、ほんとうに偉業だ。すさまじい。本当に好きだ。
私のようにディスコエリジウムのまぶしさにヨタヨタして目を開けられない赤子へ(PC版):
・Tabキーでハイライトできる。
・クリックしたらそこへ移動しようとしてくれる。階段とか通路とか、どう上って下りればいいかわかんないときは静かにクリックして待つ。
・選択肢は、通常のADVみたいに全部網羅しなくてもいい。
(*すると経験値が入るが)
2024.6.13(2023.4.18に書いたものをサイトに収録したもの)