第五講 魔術師と戦争(2)/バーナード・ジョラゴン

 軍隊に関わると、否が応にもクロウラー達は機密事項に携わるようになった。しかし、彼らに秘密はないも同然である。倫理的なタブーも必要とあらば平気で犯す彼らは、しかし何がタブーかもわかっていないような状態だった。
 クロウラーのの軍隊での評判は全くよろしくなかった。士気の低下、脱走、寝返り……それに、彼らは地下で引き籠っていたために政治的な勘も働かない。
 マーリストスの軍勢は一時は他国を圧倒したものの、すぐに大きな打撃を受けてこう着状態になる。前線から僻地へと飛ばされ、事実上の戦力外通告を受ける。
 そうこうしているうちに、ダルバウェイン・ウォーは双方の和解と言う形で終わりを告げた。
 マーリストスの画策は、結局は失敗したわけだ。

 さて、インゲラムの弟子にバーナードという男がいた。インゲラムを熱烈に慕っていた。インゲラム自身には能力の高さからより高位の魔法使いへ師事することを勧められるも、バーナードはのらりくらりとかわし、結局はインゲラムがマーリストスに敗れるまでその弟子であった。
 彼はインゲラム亡きあと、魔術ではマーリストスに敵わないと悟ると、とっととクロウラーのすみかを後にした。そのあいだ、なんと彼は外の世界で傭兵に志願して戦士としての腕を磨きあげたのである。小国を転々としながら、武術に全てを注ぎ込んだ。もともとクロウラーで魔法使いになる前は街道で荷馬車を襲う盗賊だったというのだから、クロウラーの懐の深さには驚きだ。

 運命の日、バーナードはクロウラーのすみかに数名の雇いの流れ者たちとなだれこみ、即座に制圧。半ば無理やりに決闘を挑み、マーリストスを詠唱中にとうとう槍で突き殺した。

 バーナードは目的を達した後はすみやかにリーダーの座をアカデミーのデボラに引き渡し、軍隊との関係を断ち切らせる。これにて、クロウラー達はアカデミーの支配下に入った。
 クロウラーたちはというと、異議のあるものは去るのみであった。

 バーナードは、槍を片手にクロウラーのすみかを去っていった。
 これが、終戦からほんの1カ月の出来事である。

 インゲラムの死と共にすみかを去った魔術師の言によると、バーナードは学問には臆するような性格ではなかったという。師のインゲラムであっても口げんかのような議論が絶えなかったらしい。
 しかし、内容が高度だったために、周りのものは何について言い争っているのかよくわからないほどだった。
 実はインゲラムにもよく分かっていなかったのではないか、とも、たまに言われている。

 バーナードの性格は、マーリストスと対比すれば彼は非常に人に厳しい。とにかく要求する水準が誰であろうと異様に高かった。彼に女や子ども、老人という違いはなかった。
 考えなしに行動することもあったが、基本的には几帳面で、大雑把なインゲラムについて愚痴をこぼすこともしばしばだったという。

 段階を踏まずに応用から学ばせようとするために、上に立つには到底向いていなかった。
 すぐにすみかを去ったところをみると、多少そんな自覚はあったのかもしれない。

 バーナードとマーリストスの歳について言えば、マーリストスの方がバーナードよりもひとまわり程度は年下であった。彼らはインゲラムについての評価以外のところではかなりの部分で意気投合していたといえる。
 マーリストスは良くも悪くもお坊ちゃんだったが、バーナードのほうはそうではない。

 バーナードはマーリストスの詠唱の隙をついて喉元に槍を突き刺した。アカデミーでは決闘において魔術師の詠唱中を狙うのは卑怯な手ではあったが、クロウラーにおいてはそのようなルールは存在しない。
 というよりは、そもそものところ、魔術師と戦士が決闘するのはありえない。

 バーナードを魔術師と呼ぶべきかどうかについて、私は酷く頭を悩ませるのである。魔術師の天敵は魔術師の弱味を知り尽くした魔術師であり、その方法は必ずしも魔術的とはいえないということか。
 頭にいくら良いものが詰まっていたとしても、その頭が、胴体と接続されていなければ無意味である。
 もっとも、アンデットの中には首なし死体なんかもいるわけであるが……。

2014/02/03