Daylight/日、払い

「給与は日光によって支払われます」
 男の前で、ドリアードはわさわさとうねっていた。枝のパターンが次々と移り変わり、木漏れ日が不安定に日光を地面に映し出す。
「”Daylight/日、払い”です」
「日光払い? そんなんじゃおなかが減っちゃうじゃないか。そんなの聞いてないし、ひょっとすると、腹がすいてしまってここにいるみんなをぱくっと食べてしまうかも」
 男は、脅しとジョークの合間で異生物の腹を探ろうとした。じっとドリアードを見つめていると、ドリアードは再びわさって、顔を嫌そうにしかめてみせた。

「私、雄株ですけど……」
「はあ?」
「実はなりませんよ」
 花粉がばさばさと顔にかかってあちこちに飛んで行った。男は二度、三度くしゃみをした。ドリアードはまたわさって、枝のひとつをかしましい広場に向けた。
「雌株のみんなに言ったら、喜んで食べさせてくれると思いますよ、だって、植物の実が甘いのは、そういうことですからね」
「食べちゃいけないと聞きましたけど」
「”エデンの果実?”」
 ドリアードは目を細めた。
「天国の門は人のためのものだ」
「人の信仰ですね」

 ドリアードには、雄雌があるけれど、枝で増えるから個性というものがないようだ。二人と話せばみんなおなじだ。ほとんど同じ性格で、男はつんと澄ましていて、女はきゃあきゃあうるさい。全部そうか、そうじゃないかだ。二種類しかいない。
 なんてつまらないんだ。目には目を、歯には歯を。ドリアードの殺害には、ドリアードを育てよというのである。

 植物というのはまったくつまらないものだと、木こりの男は芯から感じた。

 ここは、ドリアード少数民族保護区。ドリアードを間違って「伐採」した、木こりの男は、1年の奉仕活動を命じられた。

――デイライト払いのドリアードへの奉仕活動は、なかなかキツいものがあった。食べ物は、塀の向こうからわずかに支給されるパンと肉のかけらスープのみ。
 話し相手は人に見えようと常識の違うドリアードのみ。
「ドリアードの身を食べると、ドリアードになるんですよ」
 果実の誘惑に耐えながらの強制労働。
 最初の三日。我慢のない男が、果実を口にしてしまったのは言うまでもない。そうすると不思議と疲れがなくなり、日の光をとても甘いものに感じた。くしゃみも止まった。
 それから、何事もなく七か月がたった。一日の作業を終えて、作業服を脱ぐと、男は、自分の腕からウロのようなものが生えていることに気が付いたのである。

 男の気持ちは、不思議なことに凪いでいた。「そういうものですよ」。
 妙な憎しみを感じた。ルーツがあのドリアードにあるのだとやっと気が付いた。あのドリアードと同じものになるのだ。
 目には目を、歯には歯を。ドリアードの殺害には、ドリアードを育てよというのである。

『Daylight/日、払い』