新しい機種(解決編)

「すまないね」
「いや、かまわないよ」
 トグラは私が部屋に上がったところで、ようやく思い出したように口をきいた。ちらりと柱時計を見ると、ちょうど9時34分だった。ちょうど、というのは、何か勘違いしたらしい飾りの男女がぐるぐると民謡に会わせて踊っていたからだ。トグラは不快そうに女の方の人形を外してポケットにしまった。
 椅子を引くと、ペイズリー柄のカーペットに跡が付いた。
「そういえば、携帯電話なんだが、確かに変えたんだ」
「? ああ、そうなの」
「ちょっといろいろあってな。万引き犯とつかみ合った弾みに、側溝にどぼんさ」
「そうか、いや、すごいな」
 トグラはあまり興味がなさそうだった。私の作り話に対して、トグラは特につっこまなかった。
「なあ、携帯電話を変えたってどうしてわかった?」
「いや、君はいつも決まった間を開けて電話を取るからなあ! たぶん、音楽がたまたまキリの良いところでとってたんだろうけど」
「……」
「それが違ったので、携帯電話を変えたか着信メロディを変えたかだと思った。いちいち着信メロディを変えるタイプには思えなかったから、きっとデフォルトの曲だと思った、それだけだ」
「へえ」
 私はまあわかっていたけど、といった顔を作った。
「それで、用ってなんなんだ?」

「新しい機種」2017.10.28
ハヤカワ文庫のフェアで買ったドナルド・J・ソボル氏の『2分間ミステリ』がおもしろかったので、触発されてミステリ風味の短編を書きました。
もともとは文字書きチャットのお題消化用だったのですが、お題とは別の話になりました。