コロイドの友情

 うだるような暑さ。
 扇風機が回る。どうしてそういう話になったか知らないが、K曰く、例えばなんだか僕らの友情はゲル状をしている。サイの目切りのコーヒーゼリーを生クリームでないまぜにして、3週間くらい放っておいたようなかたちをしている。
 僕らの表情から角が取れたのはごろごろ下り坂を転がっていくうちにどうでもいいやと進化したためで、特にそれ以上の意味はない。
 へえと言ったので、そこで話は終わった。

 僕らは生まれ変わったら天敵の居ないガラパゴス諸島に行くのだと決めていた。そんでもって無駄にあでやかに進化するのだ。カラープリンタのCMのサンプルになりたいね、と、僕らはうそぶいた。いや、そう言ったのは僕だけで、それを聞いたKは枯れ葉のように新聞紙を動かしてがさりと音を立てただけだった。ハチドリがねらい目だと僕は思った。
 沈黙は肯定だと誰かが言ったはずだ。ついでに金だとも言ったはずだ。行き倒れ伏しているKはねずみ色のパーカーを着て馬鹿みたいにモノクロだったが、沈黙、その点では鮮やかだった。
 生意気だ。人のアパートで惰眠をむさぼる汚いはりねずみ――畳に転がっているKは尾てい骨以外のとがりは見受けられないし、その虹彩は酷く精彩を欠いている。遠くを透かしたゼラチン質はやまびこが響き渡るような山々に感じられる、無垢とか希望とかそういう透明さではなくて、単に絵具を入れるのを怠ったような安い透き通り方をしている。
 とどのつまり、刺身パックなら値札かつまだ。

 夏。
 僕らの友情は、やっぱりゲル状をしている。コロイド系がゼリー状に固化したものである。Kの言葉を思い出した。
 つまりは、いつでも解消できるようなかたちをしている。安もののストラップとストラップの継ぎ目くらいにはひねればいちころそうな安定をしている。ただ、お互いがお互いをひねる労力を惜しむあまりそのままになっていただけで。ふらりと出ていったKは2か月帰ってこない。

 夏は特に寒天がフライパンの上で踊るように溶けかけて瓦解しそうになる。寒天のようにやわらかくあれば降り注ぐ破片で苦しむこともあるまいと思う。適当さが車のボンネットやエアバッグのように僕らを救う。
 ただただ間延びして、怠惰な男子大学生の日常が、気がつけばここにある。


『コロイドの友情』
お題 穢された関係